デンマークの社会教育士(ペダゴー)から学ぶ、子どもの主体性を引き出す「遊び」と「対話」の場づくり
デンマークの教育現場で欠かせない存在である「ペダゴー(社会教育士)」。
彼らはどのように子どもたちと向き合い、その主体性を引き出しているのでしょうか。
デンマークで長年ペダゴーとして活躍されるMads Albertsenさんをお迎えして開催したワークショップとトークセッションの内容から、デンマーク流の「学び」の本質に迫ります。

「正解」を教えないワークショップ:子どもが主役になる時間
子どもたちとのワークショップは、ウォームアップとして、身体を使って音を出す「ボディ・パーカッション」から始まりました。
特徴的だったのは、Madsさんがやり方を指定・指示するのではなく、「どんな音が出るかな?」と子どもたちにアイデアを募り、一緒にオリジナルのダンスを作り上げていった点。

はじめは緊張気味だった子どもたちも、自由に身体を動かすことで、それぞれのペースでアクティビティを始める準備を進めていきます。
メインの活動では、マシュマロとパスタを使った創作活動を行いました。
Madsさんはここで、意図的に子どもたちには何をすべきか指示せず、遊ぶよう誘いかけます。
これは、それぞれの子どもたちが自身のアイデアを活性化させるために、そしてリラックスさせて意見を出し合ってもいいと気づかせるためのアプローチ。アイデアがあってもいいし、何かしたいという衝動のようなもの、それぞれの方法で進められるように関わります。
Madsさんによると、このアプローチは、「学び」の状況を作り出そうとする一例であり、子どもたちが「体験する」ことに焦点を当てているのだそう。つまり、実践を通じて学ぶこと、何かを試してみること、どうなるか見てみて、その過程で起こることから学ぶ、というプロセスです。
学ぶことが楽しいと感じられること、先生の指示に縛られない自由さがあること、また、何かを共に創り上げる過程で自分も貢献できると感じること。共に進めることに、自分自身の意見が反映されるというところから、学びの場を作っていきます。
冒頭のウォームアップから引き続き、ここでも「ルールはない」「何でもOK(Anything is okay)」という姿勢が徹底されています。
Madsさんは指導者としてではなく、一人の参加者として子どもたちと同じ目線で座り、「それは面白いね!」と驚きや共感を伝えながら、子どもたちの発見に伴走していました。

子どもたちに声をかけるMadsさん
心理的安全性を育む「声掛け」の工夫
ペダゴーのアプローチにおいて、最も重視されているのが「心理的安全性」です。
出会ってすぐのMadsさんと子どもたちでしたが、Madsさんが行なっていた以下のような工夫により、子どもたちが自分のペースで活動に取り組むことにスムーズに移行していったのが印象的でした。
「失敗」の全肯定
「間違えても問題ない」「ただの遊びだから」と繰り返し伝え、挑戦へのハードルを下げます。
参加の強制をしない
輪に入るのをためらう子には「見てるだけでもいいよ」と声をかけ、それぞれのペースを尊重します。
主体性の尊重
あえて細かな方法を教えないことで、子ども自身が「マシュマロを濡らすとくっつく」といった独自の工夫を見つける喜びを大切にしています。



子どもたちによる作品たち。同じパスタとマシュマロから創られているにもかかわらず、それぞれの個性や独創性を感じることができます。

このアクティビティには、任意で保護者の方々も参加。子どもたちのみならず、保護者の皆様の作品にも個性があふれています。
Madsさん
「今日の主な目的は、子どもたちが新しい素材や新しいテーマ、つまり馴染みのないものに出会う時の場の作り方を示すことでした。
そのため、最初から何かを無理に押し付けたり、具体的に何をすべきかを指示したりはせず、その状況で子どもたちが安心感を持てるようにしました。そして、やっていることを良い悪いで評価せず、彼らの行動を励まし、感謝していました。
『わあ、面白いね。続けてみて、もっとこの方向でやってみよう。これで何ができるか探ってみて。自分で体験してみよう』そのような進め方です。技術を示す前に、まず彼ら自身に体験させてあげたいのです」
今回は、このような目的から、子どもたち一人ひとりが自由に発想し、自身のアイデアを解放することに焦点を置いていたMadsさん。その日の目標によっては、子どもたちが協力して何かを成し遂げるような場の設定をすることもあるそうです。
トークセッション:デンマークの教育から得られる子どもとの関わり方のヒント
続く保護者、教育関係者の方々とのトークセッションでは、先ほどのワークショップでの関わり方の解説やデンマークと日本の教育環境の違いについて対話がなされました。
自分で決める余地の大きさ
ワークショップには参加してもいいし見ているだけでもいい、という緩やかな場作り。参加者の方からは、「子どもたちが、自分たちだけでやるか、チームでやるかを『選択』できる状況だったのもとても良かった」とのコメントがありました。
「試行錯誤」を待つ姿勢
Madsさんによると、デンマークでは、親や教師が子どもを理想の形に当てはめるのではなく、子どもが自分の道を見つけるのを信頼して見守るスタイルが一般的だそうです。 高校卒業後に自分の人生を探求する「ギャップイヤー」が普及しているのも、その象徴と言えるでしょう。
教員のウェルビーイング
日本の教員の労働時間が世界最長であるのに対し、デンマークはOECD平均を下回っています。 「教員自身が幸福でなければ、子どもたちの幸福や成長を支えることは難しい」という考え方に、会場の皆さんも、うんうんとうなずいていました。
おわりに
「何をすべきか」を指示するのではなく、未知の素材に触れる中での探索やリラックスできる環境を整えること。 評価をせず、まずは本人の経験そのものを尊重するデンマークのアプローチは、変化の大きい社会環境の中で自分の軸を持ちながら歩んでいくヒントになるかもしれません。また、子どもたちの自由な発想に触発されて、大人にとっても新たな視点を見つけるきっかけになるかもしれません。
Lilla Turenでは、これからもこうした対話を通じて、一人ひとりの創造性と多様性を活かす学びのあり方を考えていきます。
▼デンマークの教育アプローチに関する過去のレポートはこちら
イベントレポート:一人ひとりの個性を伸ばす教育とは(デンマーク×ニューロダイバーシティ)前編
