「デンマークで保育士」特別寄稿コラム vol. 3 保育士の働き方

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デンマークでは、どのような保育をしているのでしょうか?
デンマークで保育士経験のある遠藤祐太郎さんが現在執筆中の書籍「デンマークで保育士2022(仮題)」からの寄稿コラム。第三回目のテーマは「保育士の働き方」です。

 

 

*本コラムは個人の経験とそこで感じた率直な想いをそのままお届けするものであり、デンマークの教育の全体像を客観的に示すものではございません。内容については、デンマーク全体で共通していることもあれば、園によって方針や実践には多少の違いがあることをご了承ください。

 

よりよく働くために ー休憩の大切さ

 

デンマークで保育士を行い、何よりも大切さを教わったのが、「休憩」。デンマークではより良く働くために休憩を小まめに取る。デンマークの保育士たちは休憩を順番にとり、同様に私も休憩に関しては強く指導された。

 

当時デンマークで保育士をしていた時は、頻繁に休憩をする保育士に本当に驚いた。休憩をし、コーヒーや紅茶を飲み、ベラベラ話す。完璧にリラックスモードだ。あの仕事から休憩への切り替えの良さは、素晴らしいと思った。

 

特に、休憩中の保育士は甘いものをよく食べている気がする。過去にマーチンに言われた「休憩もお仕事だよ」というコトバは今でも忘れられない。人生は働くことが全てではない。働くために必要なこと、それは単純に休憩し、体の健康を保つことである。

 

デンマークでは園に限らず、休憩タイムが午前中と午後に一回ずつある。9時半から10時ごろに休憩タイム。また午後は13時半から14時くらいに休憩を行う。(保育士はこの時間を目安にして順番に休憩をする。)それは学校や会社でも同様である。飲み物だけでなく果物やパンなど食べる。この習慣を身につけてから、休憩を意識して仕事をするようになった。

 

仕事が全てではないこと。より良い仕事をするためには「休憩」すること。当時、デンマークで保育士をしていた私は「休憩よりも仕事」を主にしていた。「私たちが地に足をつけているのはデンマークということを忘れないで」というドーテ園長のコトバは私にとって大きな刺激になり、そのコトバは今でも体に染み渡っている。

 

 

子どものために、大人のために

 

デンマークの園内はまず天井が広い。また各クラスも日本よりは広くなく、子ども同士が遊ぶとなると、かなり狭く感じてしまうかもしれない。しかし、そもそも室内あそびを行う機会が少なく、また玩具もあまり多くは揃っていない。ある意味はじめの会やかえりの会、また食事の時に利用するぐらいだ。

 

また、テーブルやイスは全て大人が利用する高さになっている。保育士が子どもに合わせて座っていたら腰をやられてしまうという理由だ。実際にそれが問題になって改善されたようだ。だからデンマークではテーブルやイスは高い。さらに乳児が利用するテーブルもイスも同様である。

また、子どもにも合わせたイスになっており、オムツ台は高さなどの調整も可能である。全てが子どものためではなく、保育士のためにも作られている。それだけ保育士は手厚くされている。

 

 

無理はしない

 

デンマークで保育士として働いたことで、私は確実に仕事に対して「自分自身の考え方」が変わったと言える。これは自信を持って言えると思う。

 

その中でも仕事中の「病気」の判断と認識については、デンマークで強く学ばされた。日本では「仮病」という言い方ができるようなことも、働いていた園では適切に見られていた。頭痛や腹痛、また体調不良などは立派な病気に値し、正々堂々とおやすみをするのだ。かえって病気のまま仕事をするというのはありえない。実際に私もデンマークで保育士をしている時、体調が良くない中、仕事をしていて保育士たちにメチャクチャ叱られた。仕事よりも大切なことはたくさんある。仕事よりも家族、仕事よりも身体、と数多くのことを言われ、叱られた。

 

日本の感覚では、休むと周りに迷惑がかかってしまう、休みづらい、など多数の理由がある。その中、無理して働き、返って周囲に迷惑がかかっていることすら麻痺してしまう。単純に考えれば、病気をしたらおやすみをするというのは当たり前のことであり、何も不思議なことではない。本当に体調が悪いときには、無理をするのではなく、シンプルに休むことが大切である。

 

私は日本に戻ってきて、職場のスタッフには「無理をしないで」と声かけをするも、やはりそう簡単にはいかない。日本の社会で生きていくと、なかなかデンマークのようには難しいのだと痛感する毎日でもある。

 

でも「仕事よりも大切なことがある」ということを強く教えてもらえたデンマークには、今でも感謝している。デンマークの保育園で働いていたときにマーチンから言われた「休むのも仕事だ」という言葉は、今の自分を強くしてくれている。

 

 

寄稿:遠藤 祐太郎
保育士・学童スタッフ・デンマーク留学アドバイザー

1986年東京生まれ、2006年日本児童教育専門学校卒業。2009年に保育士資格を取得。立川市内の保育園に勤務した後、2014年8〜12月までオレロップ体育アカデミー(フォルケホイスコーレ)留学。2015年2月〜8月までデンマークのベァネゴーンイオレロップ保育園に勤務。同年8月帰国。現在は都内の私立保育園と学童に勤務し、かつ年に1度のペースでデンマークで保育研修をしている。
『デンマークで保育士―デンマークの子どもたちからもらったステキな時間』著者。

 

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遠藤さん登壇セミナーを2022年10月23日に東京で開催しました。
アーカイブ動画をこちらから視聴いただけます。
https://vimeo.com/ondemand/lillaturen20221023

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