イベントレポート:一人ひとりの個性を伸ばす教育とは(デンマーク×ニューロダイバーシティ)前編

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2019年12月27日(金)、「一人ひとりの個性を伸ばす・デンマーク教育体験ワークショップ」と題して、親子向けワークショップを開催しました。
今回のゲストは、デンマーク在住7年、コペンハーゲン大学でニューロダイバーシティ(神経学的多様性、脳の多様性)を研究されている海野歩未さん。当日は年中さんから小学4年生まで、12組の親子に参加いただきました。

Lilla Turen初、北欧の教育メソッドをとりいれた親子ワークショップ

これまでLilla Turenでは、北欧の教育・学びの環境について、現地在住の方や研究者の方の目線から、リアルな情報をお届けしてきました。そして私たち自身も様々なインスピレーションを受け、学びを深めてきました。
その中で、「情報を届ける」だけではなく、実際に北欧の教育のエッセンスをとりいれた学びのあり方を「体感できる場をつくる」ことができないか考えるようになりました。

そんな折、ニューロダイバーシティという専門性をもちデンマークの教育現場にも詳しい海野さんとのご縁により、北欧の教育メソッドをとりいれたワークショップを開催するはこびとなりました。

ワークショップは、デンマークで行われている授業の要素と、ニューロダイバーシティのエッセンスをかけあわせた、海野さんオリジナルの内容です。海野さんの言葉を借りると、「ニューロダイバーシティのコンセプトを取り入れた教育や子育てとは、他の人と異なる特徴や感覚が、その子自身のポテンシャルを広げるだけでなく、これからの社会の創造的な発展にもつながるということ」。このような考え方と、デンマークの「一人ひとりの個性を活かした学び」のあり方がかけ合わさると、どのような内容になるのでしょうか?

「そこで起こっていたこと」はとうてい言葉では表現しきれないのですが(ぜひ一人でも多くの人に実際に体感いただきたいです)、ここでは筆者が面白いなぁと思った3つのことをご紹介します。

 

①“自分にとって心地よい環境”を作ることが、学びをはじめる第一歩

「自分が気持ちよく勉強にするには何が大事ですか?こんな状況だったら心地いいな、と思う環境を教えてください」

ワークショップは、こんな海野さんの言葉から始まりました。参加者の皆さんは一瞬戸惑ったような様子でしたが、大人や子どもから次々と声が上がります。
「ふわふわのクッションで学びたい」
「部屋が片付いているといいな」
「家族に他の部屋に行ってもらって、一人で静かに読みたい」

では、この部屋で自分が心地よい状態を作りましょう。部屋の端の方に座ってもOKです。自分が安心する人とやってもOKです。一人でやってもOKです。途中で疲れて寝転びたいなという人は、そうしてOKです。音楽聴きながら自分の作業に集中するのもOKです」

え?そんな自由でいいの?!と驚きましたが、デンマークでは、「心地よい環境でないと、学びなんて生まれない」と考えられているそうです。型に合わせることでストレスを感じる子どももいて、そこに創造的な学びは生まれない。だから、自分がより良い自分で居られる状況はどういうことか?を常に考えているのだそうです。

また、心地よい環境ということの他にも、要所要所で何度も繰り返されていたのが、こんな声かけ。
「ここでは間違いは一切、発生しません。何を言ってもいいです。何を考えてもいいです。これ間違いかな?言わない方がいいかな?ということは起きません」

その子(人)の持っているものを最大限に引き出すために、心地よい環境を作り、自由な発想をさまたげる考えを取りのぞく。そんな信念を感じました。

関連して面白かったのが、振り返りで出た小学生からの質問です。「デンマークの学校は自由ですか?」という質問だったのですが、海野さんはこんなふうに答えていました。

「こういうことをしてはいけない(例えば人に危害を加えていけない)というのはあるけど、基本的には交渉。自分がしたいこと、したくないこと、心地よいこと、そうでないことを話してどこで折り合いをつけるか。一方的に大人や先生が決めるということはほとんどない。大人も子供も平等で上下関係はない。先生にこういうことをしたいと言って、一緒に決めていきます

心地よい環境を作ること一つをとってもそうですが、学校では、子どもたちが「自分はどうありたいのかを人に伝えられるようになること」、「相手に合わせて交渉できるようになること」を大事にしているのだそうです。学校や教育と一言で言っても、国によって目指すことが大きく違うのだな・・・と感じた瞬間でした。

 

②到達目標は示されるが、どこまで進むかは”自分で決める”

今回の活動のテーマは「ある人のための家を考える」。冒頭で活動の「三つのレベル」が示されました。

最初に投げかけられたのは、こんな言葉。

「1は、全員ができたらいいなという目標です。1ができて、2もできそうだと思う人はやってみてください。最後に他の人とシェアして対話します。
全部やらなくてもいいです。自分に合わせて、どこまで進むか自分で決めます。自分のやりたいこと、できることをやってください」

自分で決める・自分のできることをやる、という考えは、個人ワークの後に他の人とシェアする場面でも、海野さんの言葉に表れていました。

「紙に何かを書いた人もいますし、書いていない人もいると思います。鉛筆を置ける人は置いてください

書いていない人のことも肯定しているのです。そして、活動の最後にはこんな言葉が。

今日どこまでできたかな?というのを、心の中で手をあげてください。1ができた人?2ができた人?3ができた人?
全部できることが素晴らしいではありません、自分がどこまでできたかなと考えてください

活動を通して特徴的だったのは、到達目標は示されるけれど、全員が同じことをできるようになるのを目指してはいないし、全部できるのが素晴らしいわけでもない、という考え方。そして、どこまでやるかを決めるのも、どこまでできたかをふり返るのも、先生ではなく「自分」だということです。そのような意識が、海野さんが語りかける言葉のすみずみに行き渡っていました。

→面白かったこと③については、次の記事に続きます。