イベントレポート:スウェーデンの分けない教育 Vol.3 ルールはみんなで作るもの(主権者・民主主義教育)

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2018年9月24日(日)品川のコクヨスタジオにて、「スウェーデンの分けない教育 Vol.3 ルールはみんなで作るもの」(テーマ:主権者・民主主義教育)を開催しました。

ゲストは「みんなの教育 スウェーデンの「人を育てる」国家戦略」第4章「スウェーデンの主権者教育」を執筆された、鈴木賢志先生です。

今回は60名近い方々にご参加いただき、テーマに対する関心の高さがうかがえました。教育現場で働かれる方や子育て中の方に加えて、議会で働かれる方・議員の方などのご参加があったのも特徴でした。また、高校生や大学生の方にも参加者や運営ボランティアとして参加頂き、様々な視点からのディスカッションが盛り上がりました。

81/33・・・スウェーデンと日本の若者の投票率の差

チェックインでは、スウェーデンと日本の若者の投票率を示す81%と33%という数字を元に、「なぜこのような差があるのか?」、皆さんで話し合っていただきました。その中では、

・スウェーデンでは、小学校の教育の段階で、政治に参加するのがタブーとされない。そのために、自然に選挙率が高くなるのではないか。

・日本では、どこに投票しても一緒だろうと思ってしまう。スウェーデンだと、それぞれの政党の主張の違いや自分たちの生活がどう変わるか実感できているから、投票率が高くなるのではないか。

といった意見が。「日本の『どこに投票しても一緒』、というのと表裏一体で、スウェーデンでは有権者が興味を持つから政党も特徴をつけていかなければならない」という鈴木氏の言葉が印象的でした。

 

「自分たちの学ぶことは自分たちで決める」

スウェーデンではちょうど2週間前に総選挙が開催されたところでしたが、今回の選挙ではさらに投票率が上がり、87.2%に達したそうです。

スウェーデンで、一人一人が社会課題を「自分ごと」として捉えられるのは、なぜなのでしょうか。また、投票を通して社会に影響を与えようとしていく姿勢はどのように育まれるのでしょうか。

<出典:鈴木氏の講義資料より>

そのヒントとしてまず紹介いただいたのが、スウェーデンの学習指導要領です。

 

“学校は、一人ひとり異なる考え方を受け入れ、さらにそうした考えを引き出すように努めるべきである。学校は、個人が立場を表明する意義を強調し、またそれに対して可能性を与えなければならない。

 

”授業では、基礎的な民主的価値判断力に関する知識を与えるだけでは不十分である。授業の運営が民主的な方法で行われなければならないし、生徒たちが社会生活に積極的に参加できるようにしなければならない。また個人として責任を取れる力を育まなくてはならない。
日々の授業の計画や評価に参加し、自らの学習コースや教科、テーマ、活動を選択できるようにすることで、生徒たちが影響を行使し、その責任を取る力を育んでゆけるのである。”

 

このように、「自分たちが勉強することを自分たちで決める」というところまで踏み込んで書かれています。しかし、実際そのようなやり方で授業は崩壊しないのでしょうか?

鈴木氏の知人の先生によると、「やりたいことは先生の心の中に持っておき、それを子どもたちにどうやる気にさせるのか考える。”誘導する”というのが先生の技量なのだ」、とのこと。

例えば、幼児の通う就学前学校で、数の概念を教えるとき。
「このテキストをやりなさい」というのではなく、まず子どもたちの好きなもの(例えば「森のおばけ」)を決めます。そして、「森のおばけを作りましょう」といって、できたものを色々なところに配置させます。そこを起点に、「何個いますか?」「大きさはどちらが大きいでしょう?」といって算数を当てはめていくのだそうです。
そのようにすることで、子どもたちは「自分たちの選んだことで勉強している」という気になり、モチベーションが高まるのだそうです。

 

社会に影響を与える「具体的な方法」を教える、小学校の社会科

次に紹介いただいたのが、スウェーデンの小学校中学年(4〜6年生)向けの社会科教科書。教科書では、冒頭からいきなり問いかけが出てきます。

 

社会とは何かということを、あなたは深く考えたことがあるでしょうか。どのように答えるべきか、少し考えてみましょう。”

”全ての社会は変化します。…規範が変わることもあります。
たとえば髪型やファッションを変えて、規範を打ち破ってやろうとするなら、それをなんども繰り返しているうちに、それでいいのではないかと思われるようになるかもしれません。”

 

「日本だと、『決まりは守りましょう』ということはあっても、『規範は変わることがあります。やってごらん』とまで言うことはないのではないでしょうか。」
「例えば日本でも、学校で『劇をやる』ということは決まっていて、誰がどの役をやるかを民主的に決めることはあるかもしれません。スウェーデンではさらに踏み込んで、『そもそも劇をやるかどうか』にまで疑問を呈することができるのです。」
と、鈴木氏。

さらに、教科書では、人々の助けを得て決定に影響を与えるためには「オピニオンリーダー」になることと言い、具体的な方法として、友達や親戚から署名を集める、地方紙に投書する、人を集めてデモをする、責任者の政治家に直接連絡するといった具体的な方法が紹介されています。さらには、正しいスペルで字を書くことも、SNSの正しい使い方を学ぶことも、全ては「意見を聞いてもらうため」。そんな風に、学ぶモチベーションを喚起しています。

 

実際の政党に投票する、学校での模擬選挙

中学生や高校生になると、実際の選挙の一ヶ月前に行われる「学校選挙」に参加します。これは、生徒たちの運営する選挙管理委員のもと、実際の政党に対して模擬投票を行うものです。
学校選挙の結果は、実際の選挙に影響が出ないよう、実際の選挙開票後に学校のホームページなどで発表されます。この結果を見て「あの学校は左だ、右だ」という話が普通にされたり、選挙後も生徒たちの間では選挙の話で持ちきりになったりするのだそうです。

このように政治参加が積極的なスウェーデンですが、日本同様、学校における「政治的中立」は重視されています。異なるのは、「中立」の扱い方。日本だと「危険だから」といって政治家を学校に呼んだり政治の話をしたりしないようにするのが一般的。一方で、スウェーデンでは「国会に議席を持っている」など明確な基準を決めた上で、基準に当てはまる全ての政党の政治家を学校に呼ぶのだそうです。(以前、極右政党だけ学校に招かなかった高校があり、大きな問題になったそうです)

「日本でも、若者の間で社会に対する関心は高まってきており、情報もインターネットなどを通じて得やすくなっています。一方で、そうした情報を正しく理解する教育が十分に行われていないままでは、いい加減な言説に振り回され、理解できない現状に対する無力感が高まっていってしまう。規則に対して問いかけをする、それが民主的態度を養っていく第一歩になるのでは
講演の最後に、鈴木氏はこのように投げかけられました。

質疑応答・ミニワーク

鈴木氏の話題提供を受けて、質疑応答に入ります。鈴木氏のゼミ生であるスウェーデン人留学生フレッドさんも交えて、活発な意見交換が行われました。一部をご紹介します(→の後は鈴木氏とフレッドさんからのコメント)。

 

・日本の教育が優れている点は?(高校生からの質問)
→<鈴木氏より>PISAの結果を見ると、日本の方が高い。直接的に知識を教えているため知識の理解度は高く、それは強みだと思う。(逆にスウェーデンでは、モチベーションを持たせるためにまどろっこしくやっている。)
ただ、それでいいのかなというところもある。AIができることをただやっているだけのような気もする。本当に必要なことというのは、このような(スウェーデンのような)やり方から出てくるかもしれない。

・デモなどは、実際に周りでよくあることなのか?それとも、こんなこともあるよという程度なのか。また、子どもたちはどのようなことを訴えるのか。
→<フレッドさんより>高校二年生の時に、「学食でお菓子など不健康なものを販売しない」という決定があった。その時、デモではないが、私と同級生で集まって校長先生に訴えた。学生のほぼ全員の賛同を集め、学校側の決定は取り消されることになった。(会場笑い)

→<鈴木氏より>選挙中、各政党は街中に選挙小屋を設置して、色々なものを渡している。その周りに子どもたちもよく集まっている。例えば友人の子どもの中学校では、「政党の選挙小屋に突撃して、自分の持っている質問をぶつけ、レポートを書きなさい」という宿題が出たそうだ。そういったことは普通にやっている。

・社会に対する問題意識が醸成される場がないと、どの政党に投票するかも決められない。授業の中などで、社会課題に触れたり、自分の考えを内省したりする機会はあるのか。
→<鈴木氏より>先ほど挙げた社会科教科書はそのような内容ばかり。自分で課題を見つけてきて、考えをまとめ、議論しなさいという内容になっている。日本でも似たようなことはやっているかもしれないが、実際の政治という話になった途端に引いてしまうようなところがあるかもしれない。

→<フレッドさんより>小学校では議論が多かった。例えば環境問題について、「環境問題をどのように解決するか、その根拠を述べなさい」など。「環境のために車を使うのをやめよう」と誰かが言うと、別の同級生が「車を使えないと仕事に行けないから、それは悪い提案だ」などと返す。そのように議論をしたことが記憶に残っている。

フィーカをはさんだ後、民主的に物事を変えていくステップを体感するミニワークを行いました。グループごとに、学校の校則や会社の決まりごとについて「なぜそのルールは存在するのか?変えていくためにはどうすれば良いのか?」を議論していただきました。

 

~参加いただいた方のアンケートから(一部抜粋、末尾のかっこ内は所属)~

・日本の中でできることを考え、何かヒントをもらいたくて参加しました。私自身の大人としての学びが大切だと感じるとともに、我が子にもパートナーにもシェアして学んでいきたいなと思います。(幼児期の子/孫を持つ保護者)

なんのために勉強するのか、ということに答えをいただけた気がしています。何が必要かを問いかけることで考えることを促し、意見を持たせること。その上で、自分の意見を大切にしてもらいたいなら、相手のことも尊重しないとね…と、伝えていきたい。(教育関連企業・団体)

規範がコントロール可能であることを感じる教育は大切だと思いました。(企業・団体人事)

・友人に誘われ、参加。自分の職場にあてはめて話を聞いていました。賢い子ほどルールを守り、変えたいとは思っていない。それが政治と関わっているのかなと思いました。(小学校教師)

・大学院で政党政治について研究していたので、とても興味深く伺いました。おとなの民主主義教育ということもとても大事だと思っていて、スウェーデンのように子供のころから意見の伝え方、検討の仕方、を学ぶことに加え、そういう教育を受けずに来てしまった大人への何か良いツールがあればと思いました。

・社会制度は個人の力で変えることはできないけれど、個人レベルでできることは必ずある先生が子供に積極的に話しているといったことは親として参考になる

・日本とスウェーデンが根っこは似ているのにたどった道があまりにも違うことに興味がわきました。単に”自立”という言葉ではくくれない”責任の負い方”が、キーになるのかなと感じました。(幼児期の子/孫をもつ保護者)

・高校生として参加して、大人の方々の意見を聞けて貴重な経験でした。スウェーデンと日本を比較することで見えてくる改善点を知ることができてよかったです。(学生)

 

Report by: Rie T.

 


*次回は、11月3日(土)生涯学習・リカレント教育をテーマにイベントを開催します。
澤野由紀子氏より、スウェーデンが生み出した、一度就職してもいつでも学び直せる「リカレント教育」の発想と現状、課題などを紹介いただきます。ぜひご参加ください。