イベントレポート:スウェーデンの分けない教育 Vol.4 ライフステージで分けない、学びの機会(生涯学習・リカレント教育)

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2018年11月3日(土)、聖心女子学院・広尾キャンパスにて、「スウェーデンの分けない教育 Vol.4 ライフステージで分けない、学びの機会」(テーマ:リカレント教育)を開催しました。

教職に就かれている方や子育て中の保護者、企業で人事に携わる方、フリーランスライター、大学・高校生など幅広い分野、年代の方々約30名の方に参加いただきました。今回は初めて参加された方が6-7割と多く、リカレント教育というテーマに関心を持たれて参加している方が多かったようです。

<今回のレポートは、本イベントの企画から関わってくださった大学生の方に執筆いただきました。ありがとうございます!>

「最近何か学びましたか?」「今学びたいことはありますか?」

チェックインではこんな問いをテーマに、近くの人と自分の学んでいることをシェア。ふと突然聞かれると戸惑うような質問ですが、皆さん非常に活発に意見交換、発表をされていました。

日本でイメージされるリカレント教育とは?スウェーデンのリカレント教育とは?そして、そもそも私たちはなぜ学ぶのか?

こんな問いを頭に思い浮かべながら、聖心女子大学文学部教育学科教授、澤野由紀子先生の話題提供に入りました。

現在、澤野先生は日本および北欧・ロシア地域を中心とする諸外国のリカレント教育について研究されており、書籍『みんなの教育―スウェーデンの「人を育てる」国家戦略』では、5章 スウェーデン発の「リカレント教育」と「生涯学習」を執筆されています。今回はその内容を軸に、現地での実例を交えてお話しいただきました。

 

激しい時代の変化に合わせて、学び直す -スウェーデンで生まれたリカレント教育-

まず紹介いただいたのは、リカレント教育という言葉が生まれた由来です。

リカレント教育とは、「社会人になってからも、学校などの教育機関に戻り、学習し、また社会へ出ていくということを生涯続けることができる教育システム」のこと。近年、安倍政権のもとで「人生100年時代構想会議」が結成され、よく耳にするようになりましたが、実はこの言葉が生まれたのは1960年代にまで遡ります。

当時スウェーデンの教育大臣を務めていたオロフ・バルメ(のちに首相)が欧州教育大臣会議で「オーテルコマンデ・ウートビルドニング(繰り返し流れを変える)」というスウェーデン語を英訳・引用したそうです。そして、変化の著しい現代にあって、従来の教育を受けてから働くという一方通行のシステムではなく、生涯にわたり、時代の変化に合わせて学び直しをしていく必要性を訴えたのです。その後、1970年代にストックホルム大学教授であったフセーン教授が“Recurrent Education”と英訳して提唱し、OECDの教育システムとしても導入されるようになったそうです。(なんという先見の明…と驚きますが、実はスウェーデンのリカレント教育が盛んになった背景は時代とともに常に変化してきました。これは後半で紹介します!)

 

「誰でも、いつでも学び直せる」を支える仕組みと、人々の考え方

リカレント教育の源流がスウェーデンにあったことが分かったところで、興味深い統計データの紹介がありました。それは「大学型高等教育入学者(日本でいう4年制大学入学者)の中の25歳以上の割合」というもの。これによると、スウェーデンの大学入学者の25.9%、実に約4人に1人が25歳以上となっています。一方の日本はというと、1.9%。また、スウェーデンでは全大学生の平均年齢は29.1歳で、男女の比率はなんと女性のほうが男性を上回っているそうです。ここからはわかることは、スウェーデンではすでに働いたり、子育てをしたりしている大人が大学に戻ってきやすいということ。なぜこれほどに、学び直しが浸透しているのでしょうか?

澤野先生のお話によると、スウェーデンでは、単に教育機関等があるだけでなく、大人が仕事や子育てをしながら学び続けられるしくみが社会全体として整っているため、人々の生活に学び直しが広く浸透しているそうです。

いくつかの例を簡単に挙げると、

就学前教育や学童保育を含めた教育の制度全体が充実していて、大人が学んでいる間に子どもを預けておくことができる。そのため、子育てをしているお母さんも安心して、教育システムに戻ることができる。

休職する、あるいは働きながら学ぶ人への奨学金制度があり、仕事を中断するハードルが低くなっている。博士課程に入学する場合には、働いていることを想定したお給料まで出るとのこと…!

学び直しをするうえで、「どんなことを学んだらよいか?」等のカウンセリングを受けられる。障がいのある方向けの相談も行っている。

このようなしくみが、スウェーデンのだれでも、いつでも、好きなときにできる学び直しを支えているのだそうです。

 

また、こうしたしくみの紹介と合わせて、人々の生涯学習に対する考え方がどれだけ実際の生活に浸透しているかというところにも触れていただきました。

澤野先生がスウェーデンの保育園の先生方にお話を伺った際、二言目には「私たちが生涯学習の基礎を担っているんです」と言われたそうです。就学前教育の最前線にいる保育園の先生が教育システム全体を見据えて日々の保育をしている様子に、会場の皆さんも興味深く耳を傾けていました。

 

スウェーデンでリカレント教育がさかんになった背景と、目的の変遷

近年の日本では、長い人生をどのように生きるかという文脈でリカレント教育がよく扱われます。しかし、スウェーデンで学び直しが盛んになった歴史的背景には、失業率の大幅な上昇があったそうです。

1990年代から2000年代の社会情勢により、若年失業率が一時30%以上に悪化。それを受けた政府が、「知識向上プログラム」と名づけ、失業者のセーフティネットとしての学び直しを推し進めたそうです。その後、専門的なスキル向上に特化した職業教育が試験的に始まり、徐々に拡大。2009年にはそのための行政組織も設立され、徐々にスキルアップのための学び直しに変化していきました。

―時代に即して学び直しの目的を変えていくスウェーデンの実例を聞き、日本のリカレント教育のあり方や、その制度に参加していく一人一人の意識についても考えさせられた瞬間でした。

 

インフォーマル教育 -デンマークとの比較を通して-

会場にはスウェーデン以外の北欧での教育に興味がある方も多くいらっしゃり、スウェーデンのインフォーマルな教育について、デンマークの比較を交えてお話頂きました。

インフォーマルな教育とは、家庭生活、余暇などに関連した日常の活動を通した学習のこと。学校の授業のように組織化され、構造化されたフォーマルな教育の反対に位置付けられています。そして、スウェーデンのインフォーマルな教育には大きく、フォルケホイスコーレ(以下、ホイスコーレ)とスタディーサークルの2つがあるそうです。

まずはデンマーク発祥のホイスコーレについて。これはデンマークの教育者グルントヴィによって提唱された学校で、スウェーデン全土に145校あるとのこと。デンマークでは成績評価をつけない対話型の授業がメインで、全寮制なのが特徴ですが、スウェーデンでは、スキルや進学を意識した学校もあり、都市部では宿泊せずデイタイムにのみ通学する学校もあるそうです。特に大学への推薦入学制度もあることから、大学進学を目指す難民の方も多くいるようです。

そして、もう一方はスタディーサークル。これは労働者教育協会など、国から認定され助成金を受ける10の団体が民主主義、環境、音楽、美術、文芸などの趣味サークルや、移民のためのスウェーデン語講座を展開しているもの。全国28万以上のサークルが団体に所属しており、短期プログラム等も含めるとのべ1650万人が受講しているとのこと。(スウェーデンの人口は約1000万人なので、なんとその1.6倍…!)政府が国民一人一人を直接支えるのが難しくなっている現代の日本において、政府が個人に補助金を出すのではなく、個人を包摂する団体に出すという仕組みも、大切な考え方かもしれませんね。

質疑応答・ミニワーク

生き生きとした地域社会をつくる実例としてキャンパス・バーベリの事例をご紹介いただいた後、質疑応答に入りました。以下では、代表的な質問と、それに対する澤野先生、または参加者の方からの回答をご紹介します。

Q. 対話や議論を重視した教育をしていると伺ったが、教師など教える側のスキルはどのように磨いているのか

A. (澤野先生) フォルケホイスコーレの先生は研修会がある。スタディーサークルの先生も研修をする機会がある。北欧の人々は話し合いが自然に始まるため、教える側として特別なスキルを重視することは少ないかもしれない。ただ対話スキルを身につけていない移民、難民の方も増えてきており、必要な場面が増えているように思う。

Q. 日本の社会人の学び直しは英会話スクールが主流だと思うが、競争が激しいと感じている。スウェーデンでは商業的な教育は少ないとのことだったが、各学校間の競争はあるのか?生徒はどのようにして学校を選ぶのか?

A. (澤野先生)学校を情報がまとまっている分厚いカタログ等があり、それを見て選ぶ人もいる。

(スウェーデン在住の参加者の方)近年、商業的なスクールは増えている。しかし、通う場合は企業や行政が必要に応じて授業料を負担する仕組みになっていることがほとんど。以前、英語の講座に通っていたとき、民間機のパイロットや中高生も生徒の中にいた。話を聞いてみると、勤めている航空会社が受講を奨励していたり、自治体が追加で授業を受ける必要がある生徒に支援しているということだった。

Q. スウェーデンには様々な教育機関、学ぶ場があるが、生徒たちは進路をどのように選択するのか?

A. (澤野先生)ほとんど高校入学時点でコースが分かれるため、中学3年生(9年生)の時点で決める必要がある。ただ、途中で進路を変更して、もう一度専攻をやり直す生徒もいる。

高校生から社会人、フリーランスから小学校教員の方まで、幅広い角度からの質問があり、未来の教育を真剣に考えていらっしゃる皆さんの姿が印象的でした。

 

ワークショップ -わたしと社会を繋げる学び直し-

 学び直しにも様々な目的や内容、方法があることを伺いました。また、キャンパス・バーベリや専門的職業教育の実例で見てきたように、スウェーデンのリカレント教育の共通点は「学び直しをした人々が、地域社会に価値を還元している」ところにあるようです。

そこでワークショップでは、まず用紙に自分が将来どうなりたいかという大きな目標を書き、そのために①なにを学びたいか、②その学びは自分自身と社会にどんな意味があるかをフィーカを挟みながら書き出しました。

フィーカとはスウェーデンのコーヒーブレイクの時間のこと。北欧のお菓子をいただきながら、リラックスした雰囲気でのワークとなりました。座っていたテーブルを超えて弾む会話にも新たな発見がありますね。

その後、2人1組になってシェアをし、代表で何人かの方に発表して頂きました。書き出してはじめてわかる「学び直しをする上での課題と解決策」や「自分と社会との関係性」について多くの意見を頂き、ディスカッションも大変盛り上がりました。

 

~参加いただいた方のアンケートから(一部抜粋)~

スウェーデンは「人材が宝」という発想で国づくりがすすめられていると感じた。多様な場で学び直しができる機会が保障されていくことがとても大事だと思う。小さいときから自分の可能性を探していく発想を育てることが生涯学び続ける力になる。就学前教育からリカレント教育につながる教育の一本の流れが国民の意識を育てている

・アクティブラーニング形式で学びが深まりました。「学びのプランを考えてみよう」のWSから、日本社会の「学び」の課題につなげて考えられて、よい機会となりました。

・日本で会社に所属をして働く中で、日本社会の構造に疑問を感じる場面があります。そういった面を見直すきっかけをつくろうと思い参加させていただきました。国が政策を図る上でどのような予算配分をしているか、教育面への対策が十分にとられていることを感じました。

リカレント教育によっていくらでも学び直しができて、人生に希望がもてるんだと思いました。日本は貧富の差が広がってきているし、一度レールを外した人に対して厳しい。今、自分の身近な子が不登校になって、自分も悲しい気持ちになっていたけれど、「人生まだまだこれから!いくらでもやりたいことをできるよ!」とメッセージを送りたいと思えました。参加して本当によかったです!


*次回は、11月23日(金祝)アウトドア教育をテーマにイベントを開催します。
西浦和樹氏より、科学的根拠に基づいて推奨され、教室での学びとの結びつきを重視するスウェーデンのアウトドア教育について紹介いただきます。ぜひご参加ください。