Event report: Education in Sweden Vol.2 School is a miniature of society

PAGE VIEW: 323

Sorry, this post is only in Japanese.

2018年6月16日(土)品川のコクヨスタジオにて、「スウェーデンの分けない教育 Vol.2 学校は社会のミニチュア」(テーマ:インクルーシブ教育)を開催しました。

約40名のご参加者のうち、半数以上が教育関係者。加えて、子育て中の保護者、企業で人事に携わる方、ハンディキャップのある子どもに関わる仕事に就いている方などにも参加いただきました。また、4分の1は前回のワークショップにも参加いただいたリピーターの方でした。

もしも自分が男性/女性(今と逆の性別)になったらやってみたいことは?

チェックインでは、「もしも自分が男性/女性(今と逆の性別)になったら、やってみたいことは?」をテーマに、周りの人とシェア。様々な意見が飛び交いました。
実は、スウェーデンでは性別によって役割を分けないため、同様の質問をしても何と答えていいかわからない生徒が多いのだそうです。(詳細は『みんなの教育-スウェーデンの「人を育てる」国家戦略』(ミツイパブリッシング)参照)

日本との違いを感じたところで、アールベリエル松井久子氏の話題提供に入ります。
松井氏は、スウェーデン在住歴24年。日本で高校教師として働いた後、現在はストックホルムにあるトゥンバ高校で日本語の教員をされながら、3人のお子さんを育てていらっしゃいます。今回のテーマ「分けない=インクルーシブ」な学校教育のあり方について、教師および母親の目線からスウェーデンと日本の教育現場の違いを語っていただきました。

今回は特別ゲストとしてスウェーデン人4名もお迎えし、プレゼンの合間に随時、スウェーデンと日本の教育を両方体感した目線でのご意見もいただきました。(日本の大学に留学後日本で勤めているエルヴィーラさん、日本に留学中の大学生アレクサンドラさんとマックスさん、そして今回松井氏が引率してきたトゥンバ高校の生徒さん1名)

誰にでも平等な教育機会 〜地域に開かれた学校と、母語での学習機会の保証〜

まず紹介いただいたのが、日本の学校との違いについて。検定教科書がなく授業における先生の裁量が大きい公立・私立ともに学費が無料で誰にでも平等な教育機会が与えられている年齢問わずいつでも学び直しができるため大学には高齢の学生もいる、といったお話がありました。
また、周辺地域のつながりが深く、トゥンバ高校では体育館やスケートリンク、市民会館など、隣接する市の様々な設備を利用しているそうです。逆に高校の施設を他に貸し出すこともあり、近隣の小学校から高校の食堂に食事しにくるといった交流もあるそうです。

移民の多いスウェーデンでは学童期の生徒も多様な背景を持っており、まさに学校が社会のミニチュア各市で就学前学校から高校まで母語の授業を受ける権利が保証されており、スウェーデン語以外の母語を持つ生徒のための授業(現在34カ国語の授業)を実施しているそうです。松井氏が勤務している市では、一人でも他の母語を話す生徒がいれば、先生を付けて学習機会を与えているとのことです。

生徒会の意見を学校運営に取り入れる 〜実践しながら学ぶ、リアルな民主主義〜

トゥンバ高校では、クラス会議を各学期に2回、セクターごとの代表会議を各学期に1回、学校全体のクラス代表生徒会議を各学期に1回実施。生徒会で挙げられるリクエストは、次年度の学校運営に反映されます。
生徒会で上がるテーマは、時間割の改善(「開始時間を遅く」「休み時間を長く」など)、テストの頻度の改善、配布資料や板書をデジタル化して欲しいといった学習面への要望まで。日本では先生や学校が決めるような内容にまで、生徒の意見を盛り込むのだそうです。

夏休みが始まる少し前(5〜6月頃)の学年末に、次年度の内容を先生方が決める会議があり、そこで生徒会で挙げられた内容が盛り込まれるのが通例。
数年前には「教師とよりよいコミュニケーションをとりたい」という要望が生徒から挙がり、その結果、学期初めに全ての学生と授業時間内に個人面談をするよう義務付けられるようになったとのことです。

分けない教育と、それを支える体制づくり

スウェーデンには盲学校がなく、弱視の人も普通の学校に通います。生徒のニーズに合わせて、光のあたり具合がよい教室を選んだり、配布資料のフォントを工夫したり、デジタルで事前配布したりして支援をするそうです。

また、トゥンバ高校では、自閉症スペクトラムのクラス(アスペルガー症候群の診断を受けている人が中心)に45名も生徒が在籍しており、教科を教える教職員以外にも進路指導、特別支援、図書館、生徒健康ケアといった役割を専門に持つ教員など、多様な生徒のニーズに対応する体制を整えているそうです。

スウェーデンの教師のあり方 〜柔軟な労働条件と、生徒との関係性〜

スウェーデン教師の労働時間は日本よりずっと少なく、35時間/給与は勤務年数などでなく、毎年校長や教頭と交渉して決定。また公立高校であっても転勤はないそうです。
さらに、高校教師の場合教科制なので、時間割は「◯曜日は授業のない日にしたい」など、柔軟に希望を出すことができるそうです。松井氏は68%で稼働希望を出し、授業のない日時は他のキャリア開発につながるコースに通ったり、家庭のために使ったりしているそうです。

 生徒を子ども扱いするのではなく、大人と対等に生徒の意見や権利を尊重するスウェーデン。スウェーデンの教師が生徒と接する上で重視しているポイントや授業内容について、松井氏やゲストの方々から次のような意見が出ました。

 ・生徒との接し方

「スウェーデンで先生に求められることは?」という松井氏の投げかけに対し、ゲストのエルヴィーラさんは「スウェーデンは『タメ口』の王国(会場から笑い)。敬語がなく、先生も下の名前で呼ぶ。それが生徒と教師の距離が近くなる理由の一つ。あとは、小さい頃から何に対しても疑問を持ちなさいと言われるので、先生が言ってもそのままノートに書くのでなく『なんでそうなのか?』と必ず質問する。質問をして納得しないと、その課題をするモチベーションが上がらない。」と回答。

松井氏もスウェーデンの学校で赴任した当初、「みなさん○○をします」というと「どうして??」と生徒から第一声で疑問を投げかけられ、戸惑ったといいます。小学生も含めて、なぜその授業をやるのかとことん説得しないと、生徒のモチベーションは上がらないとのこと。

また、生徒にとっては、先生とフレンドリーな関係を築くことが大事だと考える人が多いよう。先生との親密感が信頼関係を生み、結果的に生徒のモチベーションも上がる、というのがスウェーデン式のようです。

・授業内容

先生が9割以上話し、生徒は板書をとるという学習スタイルが定番の日本の授業。一方で、スウェーデンの授業では、独学ではできない、人と集まる場である学校でしかできない取り組みが行われることが多いようです。例えば…

・全体授業よりグループ授業、ディスカッションやプレゼンテーションなどが多い
大学と提携して大学のプログラムの一部を聴講
教科間のジョイントプロジェクトを実施(例えばジョージ・オーウェルの作品「1984年」を社会科と英語の時間に読んでディスカッションするといった形)
社会の時間には、学校で政治討論会が行われることも(各政党が学校にきて討論会をしたり、スウェーデン国内にある8政党に分かれて討論会や模擬投票をしたり)

その他にも、間違いの正し方(細かい添削はせず、大きな間違いのみ指摘。のびのびすることを優先)生徒の評価の仕方(出席日数や態度は関係なく、純粋に知識や技能の到達度で評価)といった特徴を紹介いただきました。

最後に、スウェーデン教育における課題点についてもお話いただきました。ここ数年問題となっていたPISAの成績低下傾向、教員養成教育の充実や教員の地位向上などが課題として捉えられており、現在様々な対策が取られているとのことです。

グループディスカッション

スウェーデンのコーヒーブレイク”フィーカ”をプレゼンの合間にはさみながら、参加者同士やゲストの方々と交流いただいた後、プレゼン内容を受けて印象に残ったことなどをグループでディスカッションをする時間に。各グループのテーブルには、松井氏やゲストの3人にも参加いただきました。議論の一部をご紹介します(→の後は松井氏やゲストからのコメント)。

・個性を伸ばす話と、協調性の話は、バランスがとれるのか?
個性を尊重するから、お互いを尊重する。だから他人にも寛容になれる。協調性がなくなるところまでいかない。不思議なところでコンセンサスが成り立つ。

・日本では「個」というと自分勝手なイメージがあるが?
→私からみても日本人と比べれば多少わがままかなと思う部分もあるが、気になることはそこでまたディスカッションをすればよい。スウェーデン国内でみれば、主張するのは当然の権利。協調性という点でいくと、ある範囲で空気を読んでいる感覚がある。自分を大切にしてもらっているから相手のことも大切にできるのでは?なにか問題が生じればとにかくディスカッションする。日本だと批判されている気持ちになってしまいがちだが、「あなたはどう思っているの?」をやらないとわからないという理解。学校に来る目的は知識を学ぶことだけでなく、他の人がどう思っているのか意見を交換することに意義がある。

・学校の校則など、小さなことから大きなことまで子どもたちが出していけるのが素晴らしい。
→疑問に思ったことをしっかり表現していける環境がある。生徒側も、どんな課題を出せば達成できるのか考えて、表現の仕方を工夫している。

・生徒に先生との交渉権があるのが、日本だと考えられない(宿題の量や内容など)。
生徒側も理由をちゃんと言って先生を説得させる交渉力が必要。言えばいいというものではない。クリティカル・シンキングのような、どうすれば相手を説得できるかということは、小さな頃から考えている

最後に、各グループで話した内容について数名シェアしていただいた後、松井氏とゲストの方々から一言いただき、イベント終了となりました。

スウェーデン人であり日本の教育も経験している3人のゲストの方々から共通していただいた感想は、「自分の国といってもあまり深く考えたことがないので、参加者のみなさんの質問を聞きながら自分の国をあらためて考えて、非常に勉強になった」「スウェーデンの教育の強みも弱みもあって、日本の教育の強み・弱みをあらためて考えさせられる良い機会になった。」というご意見でした。

なお、今回ワークショップ内でお答えしきれなかった主要な質問(下記)については、後ほど先生に回答いただき、Peatixメール経由で参加者の方に連絡させていただく予定です。

・スウェーデンで「大人」とは、どういう人のことをいうのでしょう?どういう過程を経て大人になるのでしょう?
・違うことが当たり前、分けないことが当たり前の社会に生きる人々の間で、人種や文化、それに根付いた価値観間での対立はまったく起こらないのか?存在する場合はどう対応しているのでしょうか?
・スウェーデンにおける対話とは何か?日本の対話とは違いますか?
・日本の学校との忙しさの違いはどこでしょうか?

 

~参加いただいた方のアンケートから(一部抜粋)~
・個性を尊重し、他者との違いを知ることで協調性が生まれる。そのためにはディスカッションすることが必要。
・特別支援教育に携わった関係で「ハンディキャップのある子を分けない学習」のイメージで参加したのですが、もっと広義の意味での「インクルーシブ教育」の内容がお聞きでき、とても充実した時間を持つことができました。高校生が「照明」などの「学習環境」に始まり「成績評価」などの「学習内容」までに参画できることが素晴らしいと思いました。学校運営に関わることができる、それは、主権者意識を持つことにつながります。小さいうちから「どうして?」という疑問を大事にしていく、大人が子供の疑問に一生懸命応える、こんなことがわかり、第三回目も参加したくなりました。
・松井先生の実践から、日本の学校でこうしていったら、というアドバイスをいただけたらと思っていたのですが…自分たちで考えるべきだと思い直しました。
・個を大事にする教育と、それを実現するための取り組みに驚きました。特別支援学校教員をしていますが、日本ではやはりおまけの意識が強く感じます。
・子どもを産んでからいっそう日本の教育、価値観、自己主張できない雰囲気…などに疑問を感じるようになり、参加しました。松井先生の講演の中では「何に対しても疑問を持つ、納得しないとやる気がでない」という言葉はとても印象的でした。
・学校で先生と生徒がきちんと話し合う交渉をしていくということが日常的にあるというのが興味深かったです。学校を社会の一部として同じような機能があるというのは良いと思いました。


*次回は、1014日(日)主権者・民主主義教育をテーマにイベントを開催します。
鈴木賢志氏より、スウェーデン社会の根幹を貫く「民主的な価値観」が学校でどのように育まれているのか紹介いただき、実際に民主的なプロセスを体感するワークを行う予定です。ぜひご参加ください。

*7月14日(土)には、デンマークの教育現場から暮らし、教育、働き方にまつわる「生の声」を紹介するイベントを開催します。国は違いますが、北欧社会の根底に流れる「インクルーシブ」「個を尊重しつつ社会の連帯をはかる」といった考え方をより深く理解したい方におすすめです。
世界一しあわせな国の教育のおはなし 〜デンマーク人はなぜ世界一しあわせ?ランキングではわからない、しあわせの指標〜

*北欧の教育・学びLilla Turenでは、Webやリアルな場を通して様々な切り口から情報発信を行っていきますが、もっとフラットに双方向の議論を深めて行く場として、オープンなFacebookグループ「JAPAN∞HOKUO」を設けております。どなたでもご参加・ご投稿いただけますので、ぜひお気軽にご参加ください。